みみ・はな・のどの症状
みみ・はな・のどの症状
耳の構造は、耳の穴の外側から鼓膜までの「外耳」、鼓膜の内側でキャッチした音の振動を増幅させる「中耳」、さらに内側で音を脳につなげる「内耳」に分かれています。また中耳から耳管を介して鼻とつながっています。
外耳炎とは、鼓膜より外側の耳の中の皮膚に起こる炎症のことです。不潔な耳かきや指のつめなどで耳の中を傷つけてしまい、そこに細菌が入ることで発症します。症状は、耳の痛み(耳たぶをひっぱったり、耳の入り口を押したりすると痛みが強くなる傾向があります)、かゆみ、ヒリヒリ感、耳だれ(白や黄色の液体)などです。ひどく腫れると聞こえが悪くなったり、耳閉感や耳鳴りを伴ったりすることもあります。耳の中の皮膚はとても薄くデリケートで、少しの刺激でも傷ついたり、荒れたりします。異常を感じた場合は、悪化する前に受診されることをお勧めします。
外耳道にカビ(真菌)が感染して炎症を起こす疾患です。外耳炎と似たような症状(耳の痛み、かゆみ、耳だれ、耳閉感、腫れ)を伴いますが、酒粕や菌糸に似た耳垢がみられることもあります。乱暴な耳掃除をする癖があり、耳の中に頻繁に小さな傷を作っていたり、慢性的な炎症によって外耳道内が湿っていたりする状態のときに起こりやすくなります。カビ(真菌)は湿気のある環境で育つため、汗をかきやすい夏場などに起こりやすい傾向があります。治療は、カビの種類を検査で特定した後、外耳道を洗浄し、抗真菌剤の塗布や点耳をします。かゆみが強い場合は、抗アレルギー薬の内服を併用していただき、重症の場合は抗真菌薬を内服していただくこともあります。定期的な治療が必要になります。
鼓膜より内側の中耳で炎症を起こす疾患で、一般的に中耳炎と言われているものが急性中耳炎です。主に小児が風邪をひいた後、鼻の奥から中耳につながる耳管を介して細菌が感染することで起こります。子どもがかかる中耳炎の中で最も多く、とくに5才以下の小児が発熱した場合、中耳炎の有無は必ず確認しなければいけません。症状としては、鼻水やのどの痛みなどの症状に続いて、強い耳の痛みや発熱、耳だれ、耳がつまった感じ、聞こえにくさなどが生じます。耳痛をうまく伝えられない乳児は、機嫌が悪くなってぐずったり、頻繁に耳に手を当てたりするなどの仕草がみられます。急性中耳炎の治療では、鼻の治療と細菌を抑える抗生剤の投与でほとんどは完治しますが、痛みが強い場合やなかなか熱が下がらないといった重症のケースでは、速やかに鼓膜を切開して排膿する必要があります。切開した鼓膜は、中耳炎が治ればすぐに元に戻りますので心配はありません。一度中耳炎を起こしたお子さんは、風邪をひくと再び中耳炎になる可能性が高いので、まずは耳鼻科を受診していただくことをお勧めします。
主に急性中耳炎を繰り返す小さなお子さんにみられる疾患で、鼓膜の内側にある空洞(中耳腔)に滲出液などが溜まって耳がつまった感じや難聴が起こります。ご高齢の方にみられることも多く、この場合、耳管機能の老化が主な原因です。急性中耳炎から移行する場合と副鼻腔炎が長引いた場合などに起こりやすくなります。無症状から難聴まで症状は様々で、幼児では気づかないことも少なくありません。「普通に呼びかけても振り向かない」、「テレビの音が大きい」、「鼻の調子がずっと良くない」といったことがあれば、念のため受診をお勧めします。鼻水を伴うことが多く、鼻の治療を行うことで大半は改善しますが、改善しない場合は鼓膜切開や鼓膜チューブを挿入する手術を行うことがあります。
鼓膜にあいた穴が閉じずに残ってしまい、中耳の炎症が慢性的に続いている状態を慢性中耳炎といいます。風邪の原因となる微生物が、鼻とつながる耳管から入るだけでなく、鼓膜に穴があいていることで外耳道からも中耳に入り込むようになります。中耳に細菌感染が起こると「耳だれ」の症状が現われます。鼓膜の穴の大きさや中耳の炎症の程度によっては難聴を伴うこともあります。慢性中耳炎の中でも特殊な病態として、真珠腫性中耳炎(しんじゅしゅせいちゅうじえん)があります。“骨を溶かす巨大な耳垢”ともたとえられており、放置すると周囲の骨を溶かして進行していく危険な中耳炎です。
思い当たる原因もないのに、ある日突然聞こえが悪くなる疾患です。多くは片側の耳で起こります。朝、目覚めたときに気づく難聴の他に、耳鳴り、耳閉感、めまいなどを伴うことがあります。発症早期よりステロイド剤の内服(あるいは点滴)による治療が行われることが多いですが、循環改善剤やビタミン剤を用いた治療もあります。突発性難聴は、できるだけ早く治療を開始したほうが聞こえの回復の可能性が高まるとされています。発症から遅くとも2週間以内(できれば1週間以内)に治療を開始することが重要です。また、難聴やめまい以外の脳神経症状(呂律が回らない、顔の感覚が鈍い、飲みこみにくい等)を併発している場合には、脳梗塞など他の疾患を考慮する必要があります。
年齢とともに聞こえづらくなる疾患で、聴力検査では両側とも高音部を中心に聴力が低下している特徴があります。老年性と言っても、50歳を過ぎると誰しも難聴が始まります。糖尿病などの生活習慣病がある場合、健康な人に比べて難聴が進行しやすい傾向があります。また、中耳炎の治療を十分に受けてこなかった方や、長年、騒音の下で仕事をされていた方も進行が早いと言われています。いずれにしても、一度悪くなった聴力は元には戻りませんので補聴器が必要になります。近年、認知症の原因としても注目されている疾患で、聞こえを良くする目的だけではなく、認知症予防の目的で補聴器を装用するケースも増えています。
めまいの疾患の中で最も多く、寝返り、起床時、臥床時などで頭の位置や頭を動かすことによって誘発されます。回転性のめまいで数秒から数十秒で治まり、難聴や耳鳴りは伴いません。内耳にある耳石(じせき)の一部がはがれ、それが半規管を浮遊し、頭の動きで移動するためにめまいが生じます。多くの場合、はがれた耳石を元の位置に戻す耳石置換法により改善させることができます。診断がつけば完治しやすい疾患ですので、早めの受診をお勧めします。
難聴や耳鳴り、耳の閉塞感など、聴覚症状を伴うめまいを繰り返す疾患です。「目が回って立っていられない」「まわりの景色がぐるぐる回る」といった特徴的な症状が現れ、嘔吐を伴うこともあります。難聴の症状は、めまいの前後に悪化し、めまいが治まるとよくなりますが、発作を繰り返すにつれて悪化していくこともあります。内耳のリンパ液が過剰な状態になることが原因とされており、その誘因として様々なストレスが関係していると考えられています。診断では、聴力検査と眼の動きを観察する眼振検査を行います。
鼻と耳の奥は耳管(じかん)と呼ばれる管でつながっています。この耳管は、通常は塞がっていて、飲み込んだり、あくびをしたりするときに開き、耳の中と外の圧力を調整しています。この働きがうまくいかず耳管が開かなかったり、開きすぎたりすると、様々な症状が現われます。
耳管が塞がったままになったり、狭くなったりする疾患です。風邪に伴う急性鼻炎、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、上咽頭炎(鼻とのどの間の炎症)、扁桃炎などによって、鼻の奥にある耳管開口部周囲に炎症が起こることが原因と考えられています。鼻の奥の粘膜に赤みや腫れ、鼻汁がみられることがよくあります。症状としては、耳がつまった感じ(自動車や電車に乗ってトンネルに入った時の感じ、高い山に登った時の感じ)や、自分の声が響いて聴こえたり、自分の呼吸の音が耳に響いたりします。
耳管が開きすぎる(必要なときにうまく閉鎖しない)疾患です。成人女性に多く、体重減少によって耳管周囲の組織がやせてしまうことや、顎関節症、妊娠、ストレス、末梢循環障害などが原因と考えられています。また、鼻のすすり癖がある方にもよくみられます。症状は耳管狭窄症と似ていて、自分の声が響いて聴こえたり、自分の呼吸の音が耳に響いたり、耳がつまった感じがします。家でゆっくりしているときには症状はなく、体を動かして汗をかくと症状が出るというケースがよくみられます。
気圧の関係で起こる耳鳴りは、多くの人が経験しますが、すぐに消える場合は心配ありません。一方、夜寝るときに寝付けないほど気になったり、耳鳴りのために物事に集中できなかったりする場合は、疾患が原因になっていることがあります。外耳・中耳の原因疾患としては、外耳炎、急性中耳炎、滲出性中耳炎、慢性中耳炎、真珠腫性中耳炎などがあり、内耳の原因疾患としては、突発性難聴、メニエール病などがあります。疾患が原因の場合は、それぞれの疾患の治療によって症状の改善が見込めます。このほか、老年性難聴などの内耳が原因で起こる耳鳴りや、原因不明の耳鳴りに対しては薬物療法や音響療法によって、耳鳴りに対する不快感を軽減する治療を行います。また、まれに耳鳴りで悩んでいた方が突然、脳出血や脳梗塞を起こすこと
急性鼻炎とはいわゆる鼻かぜのことで、鼻内に炎症が及ぶことで起こります。ほとんどがウイルス感染によるものです。鼻処置をして、空気の通り道を広げたり、ネブライザー(薬液を細かい霧状にして吸入する機器)を行ったりすることで、炎症が改善しやすくなります。
症状の経過や程度によっては急性中耳炎や急性副鼻腔炎を起こす可能性があり、小さなお子さんでは、早期の対応が必要になることがあります。
アレルギー性鼻炎は、スギ花粉などによって引き起こされる季節性アレルギー(花粉症)と、ダニやハウスダストなどによって引き起こされる通年性アレルギーに大別されます。花粉症は、春はスギ・ヒノキ花粉、夏はイネ科、秋はブタクサなど、季節によってアレルゲンとなる花粉の種類が異なります。複数の花粉にアレルギーが認められる方もめずらしくありません。症状としては、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、目のかゆみ・充血などです。
原因が特定できる場合は、可能な限り原因の回避と除去(こまめな掃除など)を行います。治療は薬物療法が広く行われており、症状や重症度に応じて抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬などを用います。目のかゆみや充血を伴うアレルギー性結膜炎では、アレルギー反応を抑える抗アレルギー点眼薬などによって症状を改善します。また、根治的な治療法として舌下免疫療法も行われています。
アレルギー性鼻炎は、正しい診断と治療で症状の改善が期待できます。つらい症状にお悩みの場合はお早めに受診されることをお勧めします。
急性副鼻腔炎は、風邪をひいた後や風邪が長引いたときに生じることが多く、風邪の症状に続いて副鼻腔(鼻の周囲にある4つの空洞:篩骨洞・上顎洞・前頭洞・蝶形骨洞)に細菌感染がもたらされることで起こります。
主に鼻づまり、膿のような鼻汁、後鼻漏(こうびろう:鼻汁がのどの方へ流れ落ちてくる症状)、咳や痰、嗅覚障害などをきたし、副鼻腔という限られた空間に膿が溜まるため頻繁に痛みが起こります。篩骨洞(しこつどう)に炎症が起こると目の辺りが痛みます。上顎洞(じょうがくどう)では頬(ほお)や歯が痛み、前頭洞(ぜんとうどう)では額(ひたい)に痛みを認めます。頭痛や頭の重さを感じたりする場合は蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)に炎症が見られます。炎症の程度によって発熱を伴うこともあります。
鼻処置や抗生剤等を内服することで、症状は改善していきます。小児は大人と比較して副鼻腔炎を発症しやすい傾向がありますが、速やかに治療を開始することで、慢性副鼻腔炎に移行しないケースがほとんどです。
副鼻腔炎が長引いて慢性化(3カ月以上)したものが慢性副鼻腔炎です。いわゆる蓄膿症(ちくのうしょう)と呼ばれるもので、完治までに長期間の治療が必要になってきます。
症状は粘液性(ときに膿性)の鼻汁が絶えず認められ、常に鼻がつまり口で呼吸をするようになります。蓄膿のにおいが鼻に回ることでいやなにおいを感じたり、においがわかりにくくなったりします。頭痛や目の痛み、頬部痛、上の歯の痛みや浮く感覚を認めることもあります。また、鼻内にポリープ(鼻茸)ができるケースもあります。
治療は急性の場合と同様に鼻処置や、抗生剤、消炎剤などを使って根気よく治療していきます。改善が乏しい場合やポリープが形成されている場合には手術治療が必要になることもあります。
鼻中隔(びちゅうかく)とは、左右の鼻の穴を真ん中で隔てている壁のことで、骨と軟骨で構成されています。この鼻中隔が左右どちらかに弯曲してしまうのが鼻中隔弯曲症で、片側の鼻に鼻づまりを起こします。鼻中隔は鼻組織の内部にあるので、外見からは弯曲の有無や程度は分かりませんが、診察することで容易に診断できます。成人の約7割以上に認められますが、その程度がわずかであれば鼻づまりなどの症状を起こすことはありません。しかし、極端に弯曲している場合は、どちらかの鼻がずっとつまるようになります。そのため常に軽い頭痛があったり、アレルギー性鼻炎を併発すると、慢性副鼻腔炎になりやすくなったり、いびき、口呼吸、においがわかりにくい(嗅覚障害)といった症状が現われてきます。
アレルギー性鼻炎がある場合は、内服や点鼻薬を使って治療を行います。鼻中隔の弯曲が軽度であれば対症療法で、ある程度症状を改善することができますが、重度の弯曲や内科的治療で奏功しない場合は、根本的な治療となる鼻中隔矯正術という手術を考慮します。
片側の鼻づまりにずっと悩んでいるという方は、まずは受診していただき、適切な治療を開始することをお勧めします。
嗅覚(きゅうかく)障害は、においを感じる経路に障害が起こり、正常ににおいを感じることができなくなる症状のことです。においとともに味覚も分かりにくくなることがあります。
嗅覚障害は、障害が起こる部位によって「気導性」「嗅神経性」「中枢神経性」の3つに分類されています。
気導性嗅覚障害は、鼻中隔弯曲症や鼻の手術後の粘膜癒着などによる鼻腔の形態異常、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎に伴う粘膜の腫れなどで、においの分子がにおいを感じる嗅粘膜まで到達できないことで起こります。
嗅神経性嗅覚障害には、嗅粘膜に分布している嗅神経自体がウイルス性の風邪などに感染し萎縮や炎症を起こすことで、においが感じにくくなるものと、転倒などで頭部を打った際に嗅神経の末端(嗅糸)がちぎれてしまうものがあります。
中枢神経性嗅覚障害は、頭部の外傷(脳挫傷)や脳の病気(脳腫瘍、脳出血、脳梗塞)などが原因となった嗅覚障害です。
また、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患にも嗅覚障害が合併することが知られています。
治療は嗅覚障害の重症度や原因によって異なります。気導性嗅覚障害や嗅神経性嗅覚障害の治療には、薬物療法や通院によるネブライザー療法などの治療が有効です。中枢性嗅覚障害は原因疾患の治療が嗅覚障害の治療につながります。
鼻出血は、ごく一般的にみられる症状で、とくにお子さんは日常生活でしばしば起こります。転んだり、人とぶつかったりして鼻を打った場合や、アレルギー性鼻炎や急性鼻炎、副鼻腔炎などの鼻の病気で、鼻を頻繁にかんだり、鼻がムズムズして鼻の穴を指でいじったりすることが主な原因として挙げられます。また、高血圧症や動脈硬化症の方は、鼻出血傾向が強いとされています。
鼻出血で最も多くみられるのは、鼻を左右で分けている鼻中隔の前端部のキーゼルバッハという部位からの出血です。この部位は鼻の穴に近いため乾燥しやすく、手指でふれやすくなっています。その粘膜は血管が豊富で薄いため、傷がつくと簡単に出血します。
キーゼルバッハ部位からの止血は、まず綿球や化粧用のコットンなどを出血している鼻に入れて外側から鼻を押さえます。座った姿勢で少しうつむき気味にし、のどに流れてきた血は吐き出すようにします。この状態を5~10分程度保持することで止血できます。15分以上経っても血が止まらない場合や大量に出血を認める場合は、鼻の奥のかなり太い動脈からの出血が考えられますので、早急に耳鼻咽喉科を受診してください。
また、鼻出血が直接生命にかかわることはありませんが、血友病や白血病などの重大な病気が背景にある場合もあります。なかなか鼻血が止まらない、頻繁に鼻血が出る、という症状がある方は一度耳鼻咽喉科での検査をお勧めします。
口内炎は口内の粘膜に生じる炎症の総称で、発症する部位によっては舌炎(ぜつえん)、歯肉炎(しにくえん)、口唇炎(こうしんえん)などと呼ばれることがあります。アフタ性口内炎、ウイルス性口内炎、カンジダ性口内炎、アレルギー性口内炎など、色々なタイプがありますが、最もよくみられるのはアフタ性口内炎です。境界がはっきりした数ミリの白い潰瘍病変で、その周囲には発赤を認めます。会話や飲食のときの接触刺激により強い痛みを伴います。噛んだり、歯ブラシで傷つけたり、やけどなどの傷から雑菌が入り込んで炎症が起こりますが、ストレスや疲労による免疫力の低下、ビタミンなどの栄養不足、口の中の不衛生といった多くの要因も発症に関係するといわれています。
また、ウイルス性口内炎ではヘルペス、手足口病、ヘルパンギーナ(夏風邪)、はしかなどのウイルスが原因となることがあります。カンジダ性口内炎は、カンジダという真菌(カビ)の一種が原因で、糖尿病の方や喘息治療に用いる吸入ステロイド剤を使用している方に発症しやすくなります。
治りにくい口内炎の場合、口腔がんの初期症状であったり、一度に何カ所もできたり、発症を何度も繰り返す場合は、全身性の自己免疫疾患(ベーチェット病、シェーグレン症候群、全身性エリテマトーデスなど)の一症状として現れていることもあります。長引いたり、繰り返したりする口内炎は、一度受診されることをお勧めします。
口腔乾燥症は、唾液の分泌量が低下することで唾液の質にも異常をきたし、喉が渇いたり口の中が乾燥したりして、痛みや不快感を伴います。起因する症状としては、水分の少ない食品(クッキーやクラッカーなど)がうまく飲み込めないといった嚥下(えんげ)障害、口の中のネバつき、くちびる・舌・口の中の粘膜が乾燥し、夜中に何度も目が覚める、味覚障害が出て食事が美味しくない、といったことが挙げられます。そのほか、カンジダ菌の増殖による舌の痛みや口角炎、歯周病や虫歯の発症、入れ歯の不適合や装着時の痛み、舌苔(ぜったい)の肥厚、口内炎や口臭、さらには誤嚥性肺炎や心臓疾患を引き起こす原因になることもあり、決してあなどれない病態です。
扁桃は、喉(咽頭)に存在するリンパ組織の集まりで、鼻腔の後方の上咽頭にある咽頭扁桃、口を開けたときに口蓋垂(こうがいすい:のどちんこ)の両側にみえる口蓋扁桃、舌のつけ根にある舌根扁桃(ぜっこんへんとう)の3つがあります。このうち、よく知られているのが口蓋扁桃で、一般に“扁桃腺(へんとうせん)”と呼ばれています。この扁桃腺(口蓋扁桃)がウイルスや細菌の感染によって、炎症を起こした状態が急性扁桃炎です。
本来、免疫の役割を持つ扁桃が、疲労などで体力が低下した時などに病原体の感染力が勝ることで発症します。子どもや20~30歳代の若い方によく起こります。
主な症状は、喉の強い痛み、発熱(高熱)、耳の痛みで、飲み込むときに痛みが生じる嚥下痛(えんげつう)や倦怠感を伴うこともあります。このときに口蓋扁桃は赤く腫れ、白い膿(膿栓:のうせん)がついていたり、表面全体が白い膜(偽膜:ぎまく)で覆われていたりします。
急性扁桃炎が悪化すると、炎症が扁桃の周囲まで及ぶ「扁桃周囲炎」や、扁桃のまわりに膿が溜まる「扁桃周囲膿瘍」を引き起こします。発熱、喉の腫れ・痛みがさらにひどくなり、痛みで食事が摂れなかったり、口が開けられなくなったり、耳痛(じつう)を伴うこともあります。
扁桃腺周囲炎は、急性扁桃炎が治りかけた際に治療をやめてしまうことに起因することが多いため、完治するまでしっかり治療を継続することが大切です。再発しやすく、繰り返し起こる場合は、口蓋扁桃の摘出手術が考慮されることもあります。
喉頭蓋(こうとうがい)とは、声帯の少し上にある軟骨でできた突起で、物を食べた時に誤って気道に入らないよう、気管の入り口にふたをする役割を担っています。ここに細菌やウイルスが感染し、急性の炎症が起きた状態を急性喉頭蓋炎といいます。
初期段階では、物を飲み込む時の喉の痛みや異物感程度の症状しか認めませんが、次第に発熱や激しい喉と首の痛みが現れ、唾液ですら飲み込めなくなることもあります。声も出しにくくなります。
炎症がひどい場合には、喉頭蓋が腫れて空気の通り道をふさいでしまい呼吸困難にいたる危険性もあります。痛みがひどく、含み声や声がれを伴い、息苦しいなどの症状が出てきた場合は、早急に受診してください。
治療は、抗生剤やステロイド剤の点滴となりますが、呼吸状態の悪化が懸念される場合は、気道の確保が必要になることがあるため、原則として厳重な呼吸管理ができる医療機関での入院治療となります。
咽頭(喉)は上咽頭・中咽頭・下咽頭の3つの部位に分けられます。口を開けて目で見える部分を中咽頭、それより上の鼻の奥(鼻腔の後方)を上咽頭、それより下方奥の、“のどぼとけ”の少し上までを下咽頭といいます。下咽頭の前方(のどぼとけの部分)には声を出す役割を持つ喉頭があります。
咽頭炎は、咽頭に炎症を起こした状態の総称で、急性咽頭炎と慢性咽頭炎があります。
急性咽頭炎は、主に細菌やウイルスなどの感染が原因です。咽頭は鼻や口を通して直接外気と接するところなので、これらの感染が起こりやすいといえます。最初の段階ではウイルス感染だけでも、のちに細菌感染を引き起こすこともよくあります。
睡眠不足や疲れなどで身体の抵抗力が低下しているときに、咽頭が細菌やウイルスに感染すると、炎症を起こして赤く腫れます。喉にヒリヒリした痛みや違和感があり、とくに物を飲み込むときに痛みを伴います。咳や痰、耳痛、全身の倦怠感、発熱がみられることもあります。
咽頭炎の炎症の広がりや、アレルギー、喫煙などが原因で起こる喉頭の炎症を喉頭炎といいます。症状は喉の痛みや咳、発熱が主体で、声帯が発赤し腫脹するため声がかすれて発声がしにくくなることもあります。喉頭炎には、急性喉頭蓋炎や急性声門下喉頭炎などの呼吸困難を起こす疾患もあるため注意が必要です。
喉の症状が長期に続く場合、悪性腫瘍が疑われることもあります。また、神経痛や狭心症・心筋梗塞の関連痛、精神的なストレスでも似た症状が現われることがあるため、気になる際にはご相談ください。
咽頭は位置の高さに応じて上咽頭、中咽頭、下咽頭に分けられ、下咽頭の前方には喉頭があります。いずれの部位にもがんはできますが、部位によってそれぞれ特徴や症状が異なります。
上咽頭がんは、喉の上部に発生するがんで、日本人では比較的めずらしいがんです。原因としてEBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)と呼ばれるウイルスが関連するものと、喫煙や過度の飲酒が関連するものが考えられています。
口の上部の奥にある柔らかい軟口蓋(口蓋垂⦅のどちんこ⦆とその周りの動く部分)、両脇の扁桃、舌根部(舌の奥の1/3の部分)、喉のつき当りの部分の後壁からなり、その部分に発生するのが中咽頭がんです。
原因としては、喫煙・飲酒といった生活習慣と強い関連があり、また、ヒトパピローマウイルス(HPV)が発症の危険性を高めることも分かっています。50~70歳代に好発し、女性よりも男性に多い傾向があります。HPVは皮膚や粘膜の細胞を介し、ヒトからヒトへ接触感染するウイルスで、咽頭への感染は主に口腔性交(オーラルセックス)によるものです。性交の多様化によって、近年では比較的若い世代にもHPVの持続感染に起因する中咽頭がんが増えてきているといわれています。
下咽頭は、喉下部の最も食道に近い部位であり、のどぼとけの裏あたりから食道までをいいます。その部分に発生するのが下咽頭がんで、目に見えない位置にあるため発見が遅れやすく、咽頭がんのなかでも治療が難しいがんと言われています。喫煙・飲酒と強い関連があり、飲酒量の多い人やヘビースモーカーの人は、下咽頭がんのリスクが高くなると考えられています。50~70歳代で発生しやすく、女性よりも男性に多い傾向がありますが、下咽頭がんの中でも輪状後部がん(のどぼとけの裏側のがん)は長期間の鉄欠乏性貧血がある女性に多くみられます。また、食道がんの合併率が高いことも知られています。
下咽頭の前方にある喉頭のがんでは、比較的早い時期に声がれなどの症状が現われますが、放置していると、声がどんどん出しにくくなり、痰や唾液に血が混ざったり、呼吸も苦しくなったりしていきます。治療は病態によって、手術、放射線療法、化学療法を単独あるいは組み合わせて行います。
口の中にできるがんの中では舌がんが最も多いです。痛みや動かしづらさを訴える方が多いです。なかなか治らない口内炎で見つかることも多く、注意が必要です。
いずれのがんも早期発見・治療が非常に大切です。喉に異常を感じた際は気軽にご相談ください。がんが強く疑われる病変が見つかった場合には、診断や治療設備の整った大学病院などの医療機関へ紹介いたします。